YouTubeに初めて投稿された動画「Me at the zoo」。正式サービス開始から1年弱の2006年にGoogleが約2000億円で買収。

2005年4月23日(現地時間)、世界で初めての動画がYouTubeに投稿されました。
投稿したのは、YouTubeの創設者の1人であるジョード・カリム(@jawed)。当時はまだベータ版としてのひっそりとしたスタートでしたが、同年11月に正式にサービスを開始します。
そして、正式サービス開始からわずか1年に満たない2006年10月。検索大手のGoogleが、YouTubeを16.5億ドル(当時の日本円で約2,000億円)という巨額で買収しました。
インターネットおよびネット動画の黎明期、当時IT企業にいた私は、そのニュースを見た時に社内チャットで同僚に「YouTubeがすごいことになりそうだね…」とメッセージを送ったのを、今でも鮮明に覚えています。
あれから20年以上。いや、たった20年という感じでしょうか?
今回は、そんなYouTubeが世界を塗り替える前夜の姿を、ビジネス視点で「かんさつ」してみましょう。
目次
PayPalの従業員であったジョード・カリムなどがYouTube設立
YouTubeは、決済サービス「PayPal(ペイパル)」の従業員であったジョード・カリム、チャド・ハーリー、スティーブ・チェンの3人によって、2005年2月14日のバレンタインデーに設立されました。
そのわずか2ヶ月後、当時25歳ほどだったジョード・カリムがテストを兼ねてアップしたのが、記念すべき世界最初の動画です。
サンディエゴ動物園のゾウの前に立ち、
「ゾウのいいところは、すごく長い鼻を持っているところ。…まあ、そんなところかな」
とだけ語る、わずか19秒の動画。
カメラに慣れておらず、何を話せばいいか分からず戸惑っている空気感が、今の作り込まれた動画コンテンツと対照的で、なんとも言えない味わい深さがあります。
しかし、この「ただ日常を切り取って、誰でもネット上に公開できる」という超シンプルな体験こそが、のちにテレビや映画の歴史を塗り替えるパラダイムシフトの第一歩だったんですね。
無法地帯だった初期のYouTube
正式サービス開始直後のYouTubeは、「無法地帯」でした。
著作権という概念はまだ形骸化しており、テレビ番組の違法アップロードや、アニメ、ミュージックビデオのコピーが文字通り溢れかえっていました。
私もミッシェルやオアシスのミュージックビデオを観て、めちゃくちゃ興奮したのを記憶しています。
ただ、権利者とのイタチごっこが日常茶飯事で、訴訟リスクは常に限界値に達していたと言えます。
「著作権リスク」という致命的な爆弾を抱えながらも、ユーザーの爆発的な「熱狂」がそれを上回る形で、YouTubeは規格外のモンスターへと、みるみる成長していきました。
コンプライアンスに恐れる日本では、なかなか生まれにくいサービスだったかもしれません。
ヲタ感のあるニコ動も好きでしたが、なぜかYouTubeはメジャー感があったんですよね。
まぁ日本は国民性もあり、一般の方がネットにバンバン投稿するのは、2ちゃんねるをはじめPCを操れる方々でしたからね。電車男はいい例ですよね。
面倒なエンコードや専用アプリが不要
人々がYouTubeに殺到したのは、当時のインターネットにおいて「ブラウザ上で、重いプラグイン(専用ソフト)を入れずに、ワンクリックで動画がすぐ再生できる」というユーザー体験が、他を圧倒して快適だったからです。
本当に快適でした。どうしてこんなにサクサク動画が観られるの??と、技術的なところに興味津々でした。
そしてなんか雰囲気がCoolなんです。
同じころ、GoogleMapもサービス開始され、Ajaxという技術を知って、これまでのネットとは確実に違う体験をしました。
アップロードする側も、専用ソフトをいれて動画をエンコード(変換)して、アップロードして…のように結構専門知識が必要でしたが、YouTubeはブラウザ上でほとんどの動画形式でアップできるので、そんな専門知識が不要なんですよね。
これは爆発的にユーザーが増えるわけです。
未来が見えていたGoogle。2006年10月に約2000億円で買収
著作権問題でいつ潰れてもおかしくないと言われていたYouTubeに、手を差し伸べたのがGoogleでした。
当時の16.5億ドル(約2,000億円)という買収額は、「赤字を垂れ流し、訴訟リスクまみれのベンチャーに対する買収としては高すぎる」と、市場からは無謀な賭けのように見られていました。
しかし、Googleが見据えていたのは「テキスト(検索)の次の覇権は、動画(ビジュアル)になる」という未来のロードマップ。
Googleも自社の動画サービスがありましたが、YouTubeの足元にも及ばないユーザー数だったようです。
今思えば2000億円なんてめちゃくちゃ安かったですよね。
買収後、Googleは圧倒的な資本力と法務チームをフル稼働させ、権利者とのライセンス契約や、著作権侵害を自動検知するシステムの構築を急ピッチで進めました。無法地帯だったインフラを、世界一安全で巨大な「広告プラットフォーム」へと見事に作り変えたのです。
今や職業にもなっている、稼ぐ場になるYouTube
Googleは広告ビジネスが本当に得意ですよね。YouTubeにアップロードした動画で広告が流れたらアップロードした人に収益をバックするという「YouTubeパートナープログラム(YPP)」を作成し、ユーザーが動画をアップロードする動機を与え、熱狂をつくる。
そして投げ銭・メンバーシップなど、次々とクリエイターをそそるサービスを出し続け、世界で月間ログインユーザーが25億人以上とも言われています。テレビを抜くわけですよね。
今回の「かんさつ」まとめ
- 原点はいつもシンプル: 世界を変えたプラットフォームの第一歩は、動物園のゾウの前での「たわいもない19秒」から始まりました。
- 「不」の解消が熱狂を生む: 面倒なダウンロードなしで「動画がすぐ観られる」「アップロードできる」というシンプルな価値が、法的なリスクすら超越するユーザーの熱狂を作った。
- リスクを買う強さ: Googleの勝因は、未完成で課題だらけのサービスの中に眠る「未来のインフラとしての価値」を誰よりも早く見抜き、巨額を投じて仕組み化したこと。
もしあの時、GoogleがYouTubeを買収していなかったら、今日の「YouTuber」という職業も、スマホで動画を当たり前に楽しむ文化も、もっと違った形になっていたかもしれません。
19秒の「Me at the zoo」を眺めながら、ビジネスにおける「スピード感」と「先見の明」の重要性を、改めて考えさせられます。
